未経験で採用されるための転職戦略と心構え

未経験者にもチャンスあり

日本においても終身雇用はもはや当たり前のものでなくなり、働き方改革、フリーランスを念頭に置いた税制改正、副業(複業)解禁の動き、ワークライフインテグレーションなど、職に関する潮流は時代とともに変化し続けています。

そういった時代の後押しを全面に受け、転職市場は活況の様相を呈しています。企業は人手不足から中途採用を積極的に展開し、優秀な人材や即戦力は市場で奪い合いが続いています。

そこでよく見かけるのが「経験不問」「未経験採用」といった文言です。企業は即戦力がなかなか採用できないため、当該業界や職種の経験者以外にも採用の門戸を開いています。

では、求職者側から見た場合、「未経験採用」をどのように捉えて転職活動に臨めばよいでしょうか。

「未経験でも内定を得るために必要なこと」と「未経験の業界・職種にチャレンジするときの心構え」の2つに分けて考えてみます。

未経験でも内定を得るために

まず、未経験であっても企業から内定を得るために何が必要かを考えてみましょう。 そもそも、なぜ経験者の方が内定獲得に有利なのでしょうか。

それは、求職者が経験者であれば、採用側が入社後の活躍の妥当性を容易に判定できるからです。

前職と同じ、あるいは同じような業務をしてもらうわけですから、前職で活躍していたという証左が得られれば同様に自社でも活躍できるだろうという評価をすることは比較的容易です。

一方で、未経験者でも自社が欲しい人材はマーケットに存在しているはずだということは誰もが理解しています。

しかし未経験採用に消極的なのは、もちろん活躍してくれるまで成長するのに時間がかかるということもありますが、それ以上にそもそも活躍できるかどうかの妥当性の検証がやや困難になるためです。

であれば求職者側に必要なのは、直接的な経験はないが、それでも当該企業で活躍できるという根拠を採用担当者に示すことです。

●根拠その1 トランスファラブルスキルを示す

自ら主体的に動く、課題の本質を捉える、原因を分析し解決策を検討する、必要な人材を巻き込む。

これらの行動は多かれ少なかれどのような仕事をすることになっても必要となることに異論はないでしょう。

これらの能力は基礎力や行動特性と呼ばれることの方が多いですが、転職という背景を伴う場合はトランスファラブルスキル、あるいはポータブルスキルと呼ばれることがあります。

また、論理的思考をはじめとする思考力もトランスファラブルスキルと捉えてよいでしょう。

特定の業務の経験者が獲得している専門力(専門知識と専門スキル)がなくても、活躍するために必要なトランスファラブルスキルを有していることを前職の仕事から示すことができれば未経験であっても内定獲得に近づくことが出来ます。

●根拠その2 能力獲得や問題解決の方法論を示す

メタの次元で物事を理解し実践できることはどのような場においても有用です。

これまでの職務での能力開発の方法や問題解決のために必要な準備などは、言語化できるか否かは別として誰もが感覚的には「コツ」をつかんでいると思います。

その「コツ」を一般的に適用できるように昇華して理解していれば、それは未経験の仕事であっても同じように適用できるはずです。

問題解決大全』で著者の読書猿さんは問題解決の本質を次のように述べています。

問題解決の技術が、習得可能な有限の手法の集まりに過ぎないのにもかかわらず、この先登場するであろう多種多様で無数の問題に応じる汎用ツールたり得るのは、再帰的に構成されているから、もう少しわかりやすい言葉で言い直せば、<方法を生み出す方法>であるからである。

メタ、再帰性、メソドロジー。こういった概念の説明は、未経験の場においても自分は活躍できるという説得力を持たせることにつながります。

●根拠その3 アナロジーを示す

アナロジーとは類推するということであり、ある領域で当てはまっていたことが他領域でも当てはまることを指します。

そういう意味では抽象化思考能力ともいえるので根拠その2とも重なる部分もありますが、ここではアナロジーをより具体に近い領域での類推として根拠その2と分けています。

例えば、ディベロッパーで都市の再開発を仕事にしている人がICT業界のシステム構築の仕事に就きたいとします。

当然、未経験です。ところが、都市の再開発にはパターンという概念をもとにアーキテクチャを設計することが重要だということを説明し、それがシステム構築の仕事とも似通っていると「類推」することもできます。

そうすれば実は都市の再開発で培ってきた経験が、システム構築という他業界においても十分に活かせると言い切ることも可能です。

『アナロジー思考』の著者の細谷功さんはアナロジーの使い方のひとつに「他人への説明」を挙げ、次のように述べています。

さまざまな説明に「例え話」を用いるのがその代表例である。(中略)
例え話というのは、聞き手にとってなじみのない、未知の事象や概念を説明する場合に、それと類似する、聞き手にとってなじみのある領域と関連付けることで理解を促進させるという手法である。

ここでの聞き手とは企業の採用担当者なので、なじみがあるのはシステム業界、なじみがないのは都市の再開発の業界です。この類似性を示すことで、なぜ活躍できるか、の根拠になるのです。

未経験で転職するときに肝に銘じたい「譲歩」

未経験に限らず転職するということは、何らかの変化を起こしたいと考えているということだと思います。

仕事内容を変えたい、関係する人を変えたい、給与を変えたい、勤務地を変えたい、働き方を変えたい、などです。

これらについて、トータルで見て前職よりも良い条件での転職ができるのは、強者の転職です。つまり、市場価値があり転職先からもぜひ採用したいと思われるような求職者に限られます。

では、未経験での転職の場合はどうでしょうか。 上述のトランスファラブルスキルを高いレベルで有している場合などを除いて、多くの場合は弱者の転職とならざるを得ないでしょう。

弱者の転職では、転職先から見れば「ぜひ採用したい」人材ではなく、「採用しても良い」人材です。前者は条件交渉をする立場にいますが、後者は条件交渉をしようとすると採用してもらえない可能性があります。

条件交渉ができないということは、何かを譲歩しなければならないことを意味します。例えば、前職よりも給与が低い、仕事内容は妥協する、働き方は自由度がない、などです。

これを受け入れられず、前職よりも好条件で転職したいのであれば、未経験への挑戦はおすすめしません。

条件交渉がしたければ、活躍した実績を作るしかない

それでも好条件を獲得したいのであればどうすればよいでしょうか。そのためには、「未経験」を「経験」に変えるためのステップを踏んでください。

企業側に「採用したい」と思わせなければ好条件は獲得できません。そのために必要なのは、未経験分野を経験分野に変化させ、当該分野で活躍したという実績を作ることです。

このとき、数年間の我慢は欠かせません。この我慢を「ステップアップのための準備期間」と前向きに捉えることができれば、その数年間はあなたのキャリアにとって必ずポジティブなものになるでしょう。

そしてその経験は、次の転職活動における条件交渉のための武器になるのです。

著者プロフィール:鈴木洋平(すずきようへい)‬
‪2002年日本アイ・ビー・エム株式会社入社。システムエンジニアとして入社後、同社内で人事に転身。同社を退社後、「株式会社採用と育成研究社」を設立、同副代表。 企業の採用活動・社員育成の設計、プログラム作成、講師などを手掛けている。‬
‪・米国CCE,Inc.認定 GCDF-Japanキャリアカウンセラー‬
‪・LEGO® SERIOUS PLAY® 認定ファシリテーター‬
‪http://rdi.jp/about-rdi‬

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[文]鈴木洋平 [編集] サムライト編集部