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「誰でも思いつくアイディア」から抜け出す方法
「イノベーションを起こす人材になりたいけど、自分には才能がない……」と嘆いている人に朗報です。トヨタのスーパーカー「レクサスLFA」の開発に携わり、ソフトバンクのAIロボット「pepper」の開発リーダーも務めた林要(はやし・かなめ)さん曰く、それは才能の問題ではなく努力の問題だからです。
林さんが実践するゼロからイチを生み出す「ゼロイチ思考術」を身につければ、誰でもイノベーティブな仕事はできるのです。ここではこのゼロイチ思考術のエッセンスとなる、4つのポイントを解説します。
効率性追求の先には「ゼロイチ」はない
効率化はビジネスにおいて至上命題と言っていいほど、重視されています。しかしゼロイチ思考においては必ずしも効率化が正しいわけではありません。林さんによればゼロイチを生み出すには「意味のない無駄」を徹底的に排除する一方で、「意味のある無駄」=トライ&エラーをコツコツと積み重ねる必要があるからです。
この意味のある無駄までカットして効率的に答えを導き出しても、月並みな結果しか得られません。ゼロ=答えがないところからイチを生み出すには、ある程度非効率な働き方が必要なのです。
林さんはレクサスFALを開発した時、車体にかかるダウンフォースに徹底的にこだわりました。しかしそのためには上司に言われた「主業務90%、LFAに10%の時間を当てるように」という指示に従っているわけにはいきません。
10%では10%なりの成果しか出ないと確信した林さんは、総労働時間を大幅に伸ばし、夜遅くまで「意味のある無駄」を積み重ねます。そしてレクサスLFAを完成させていったのです。
林さんは「身もふたもないようですが」と前置いて、「ハードワークなくしてゼロイチなし」と断言します。ワークライフバランスなどの動きとは真逆の考え方ですが、真のイノベーションを起こすには、その対象について寝る時間以外は考え詰める圧倒的な努力が必要だということです。
不満が多い?大いに結構!

林さんはゼロからイチが生まれるのは、論理的思考からではなく「ひらめき」や「思いつき」といった無意識的な思考からだと言います。論理的思考から生まれるものは得てして「誰でも思いつくもの」。そこからはゼロイチはなかなか生まれません。
この無意識的な思考のタネとして大切なのが「不満」です。不満が多い人というのはネガティブに見られがちですが、逆に不満を抱かず現状に満足してしまっている人にイノベーティブは起こせません。何も「不満を撒き散らせ」と言っているわけではありません。そんなことをすれば周囲から遠ざけられ、仕事がしづらくなってしまいます。
そうではなく、自分の中に沸き起こる「なんでこういう製品・サービスがないんだろう?」「なんでこの問題を誰も解決しようとしないんだろう?」という不満を、放っておかず、押し殺さず、掘り下げてみる。そうすればまだ誰も考えたことのないようなゼロイチが見つかる可能性があります。
林さんはある時「なんで財布を持ち歩く必要があるのか?」と不満を持ちました。カードや小銭、身分証など……これを持ち歩くのはリスクが高すぎる!この不満をきっかけに書き起こしたビジネスプランをソフトバンクアカデミア(ソフトバンクグループの後継者発掘・育成機関)でプレゼンしたところ、孫正義社長にも大ウケし、事業化検討案件にも選ばれたのだそうです。
「こんなことを不満に思うのは自分だけかも」「周りから変に思われるかも」なんて心の声はゼロイチ思考には一切不要。自分の不満を一度突き詰めてみましょう。
「やりたいこと」を突き詰めろ

ゼロイチを生み出す「ひらめき」や「思いつき」をコンスタントに得るには、様々な経験を積むことが重要です。無意識下に様々な経験を蓄積していくことで、ある時目の前の仕事とその時の経験が繋がって、思いもよらないひらめきが生まれる。林さんはそう言います。
しかしここで重要なのはその経験が「誰でもできるようなもの」では意味がなく、「偏った自分だけの経験」であることです。
平日は朝から晩まで仕事をして、家に帰ったら眠るだけ。休日はその疲れを癒すために一日中ゴロゴロして……こんな生活を送っていてイノベーティブな思考はできません。
とはいえ奇をてらった経験をする必要はありません。「やりたいな」「面白そうだな」と思ったものを、片っ端からやってみるだけでOK。
もちろんそこにはコストやリスクもあるかもしれませんが、それをまずは乗り越えてやってみましょう。ロードバイクや登山、演劇やヨガなどなんでもかまいせん。一見無関係に見えるものだからこそ、思いもよらない思いつきにつながるのです。
「謙虚さ」に逃げるな!「空気」を読むな!
日本人にとって「謙虚さ」とは美徳です。しかし「分相応」や「分不相応」といった謙虚な言葉を自分に使うと、それは単にチャレンジしない言い訳になってしまう場合があります。「自分なんかにはできない」と言っていては、到底ゼロイチ思考にはなれません。
「身の程知らず」「生意気」と思われても、チャンスがあれば飛び込んでみる、手を挙げてみる。そうすることによって自分のアイディアを実現したり、そのためのきっかけをつかむことができるのです。
これと同じように「空気を読む」もゼロイチ思考とは相容れない行動です。むしろ生ぬるい空気を打ち破り、自分が正しいと思うことを声を大にして主張し続ける。もちろんそんなことをすれば批判や非難が飛んでくるでしょう。
しかし林さん曰く「批判にさらされない程度ならゼロイチではない」。批判の苦痛に耐えながら、率直に意見を交換し、アイディアをブラッシュアップしていく。そのプロセスこそがゼロイチを実現するためには必要不可欠。批判も目的のための1ステップだと冷静に捉え、淡々と自説の精度を上げるように努めることが大切です。
「情熱」がなければ始まらない
ゼロイチ思考を身につけるためには、才能は必要ありません。しかしここで見たように、相当な努力がなければ身につけられないものです。
そこに「情熱」がなければ到底続けられるものではありません。「この問題を絶対解決したい!」「こういう製品・サービスを絶対作りたい!」そうした情熱を持つためにも、まずは自分の中の「不満」としっかり向き合い、それを掘り下げてみることから始めてみましょう。きっと情熱を持って取り組める何かが見つかるはずです。
参考文献『トヨタとソフトバンクで鍛えた「0」から「1」を生み出す思考法 ゼロイチ』
