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働きづめの人生か?「半年だけ働く」人生か?
●「サラリーマン」というキャリアの旨みは減っている
サラリーマンはときとして「給料はガマン代だ」という言い方をされるほど、様々な我慢を要求されます。
休み一つとってみても長期休暇が申請できればいい方で、企業によっては本来権利としてあるはずの有給申請も、根掘り葉掘り理由を聞かれたり、理由によっては申請を却下されるところさえあります。
この他にも「仕事が選べない」「使えない上司との人間関係」など我慢が必要な場面は数え切れません。
にもかかわらず今の日本ではそうした我慢に見合った給料や安定雇用ができる企業は、どんどん少なくなっています。「仕事はそういうものだ」と諦めて働きづめても、大した見返りのない時代になっているのです。
●「フリーランスとして生きていけるのはほんの一握り」ではない
こんなサラリーマンに対して、自分の裁量で仕事も人間関係も、休みも決められるのがフリーランスです。
「フリーランスとして生きていけるのはほんの一握り」と考えている人も多いかもしれませんが、クラウドソーシングのランサーズの「フリーランス実態調査2017年版」によれば、日本の副業を含めた広義のフリーランス人口は推計1,122万人となっており、毎年増加傾向にあります。
このフリーランスの一人として活躍するコンサルタント村上アシシさんは著書『半年だけ働く。』の中で、タイトル通りフリーランスとして半年働き、半年休むというライフスタイルを実現するためのノウハウを紹介しています。
ここでは村上さんの著書を参考に、フリーランス歴4年の筆者の見解も含めつつ、現実的な「キャリアとしてのフリーランス」について考えていきます。
「フリーランス」として生きるのは難しいのか?

●フリーランスの需要は高まっている
「フリーランスとして生計を立てている」というと「すごいね」「大変そう」といったリアクションをされますが、現在の日本を見ると実はそうでもないことがわかります。
なぜならば企業の採用形態が変化してきており、フリーランスの需要が高まっているからです。
・育児や介護による休暇などの取得で、一時的に人手不足になるとき
・事業立ち上げや新規契約により一時的に業務量が増えるとき
こうした「正社員を雇うまではいかないが、即戦力になる人材が欲しい」といった状況は、育児・介護休業法が改正されたり、人材の育成コスト削減が要求されたりする近年においては珍しくありません。ここでフィットするのがフリーランスなのです。
●フリーランスの方が手取りは多い

またフリーランスは基本的にサラリーマンよりも手取りが多くなります。例えばコンサルティング業界の場合、クライアントが支払う金額には管理部門の人件費、人材育成費、営業費など様々なコストが含まれています。
サラリーマンであるコンサルタントが受け取るのは、こうしたコストを中抜きされた金額だけです。しかしフリーランスはこのほとんど全部を自分の仕事の対価として受け取れます。
確かにコンサルタント一人に対する報酬の相場はフリーランスの方が低くなりますが、それでも手取りは2倍から3倍になります。
クライアントとしても結果的に支払う金額はフリーランスの方が安くて済むので、双方にとってメリットがあるのです。
これはライターでも同じです。以前筆者がクライアントから聞いた話によると、大手編集プロダクションに2,000字程度のウェブ記事を1本発注したところ、総額で25万円の費用がかかったそうです。
しかも「仕上がってきた記事のクオリティは散々なものだった」とクライアントは怒り狂っていました。
コンサルティング業界と同様、この25万円の中には諸経費が盛り込まれているため、この記事を書いたライターの手取りは微々たるものでしょう。
一方詳しく話を聞いた結果、フリーランスである筆者の感覚からすれば、2万円程度がこのウェブ記事1本あたりの報酬の上限だと感じました。
大手編集プロダクション所属のライターの手取りよりは多いでしょうし、クライアントとしての同じ費用で12本以上の記事が作れるのですから、これもwin-winの関係です。
需要が高まっているうえに、手取りもサラリーマンより多いのであれば、一般的に考えられるよりもフリーランスで生きていくことは難しくないといえるでしょう。
フリーランスに向いている職種
とはいえ誰しもがフリーランスになれるわけではありません。村上さんは著書の中で以下をフリーランスに向いている職種としています。
1.コンサルタントやITスペシャリスト、企画部やマーケターなどの「知識産業の専門職」
2.医師や看護師などの専門職
3.営業、人事、経理、法務などの「総合職全般」
1の「知識産業の専門職」で月単価はサラリーマンと比べて2倍程度、2の医師や看護師、3の総合職全般で1.5倍程度。
月の手取りが2倍になれば、単純に生産性が2倍になっていますから、村上さんの著書のタイトル通り「半年だけ働く」というライフスタイルも十分実現可能です。
1.5倍なら「8ヶ月だけ働く」というライフスタイルになりますが、それだけでも人生の自由度はサラリーマン時代より大幅に高くなります。
一方でここに挙げられている以外の一般事務職やショップ店員、企業に特化した技術職(自社製品の開発担当技術者・研究者)などは、フリーランスとしての独立は難しいとされています。
一般事務職やショップ店員などは今後AIに取って代わられるでしょうし、企業の核となる製品開発をフリーランスに外注するケースは現状少ないからです。もしフリーランスとして独立を考えている場合は、転職などをしてキャリアを積む必要があるでしょう。
フリーランスとしての「一歩」を踏み出すための方法
フリーランスとして生計を立てるとなると、「いったいどうやってきっかけを掴めばいいのかわからない」という人も多いのではないでしょうか。
しかし話は大して複雑ではありません。村上さんは「サラリーマンの延長線上でフリーランスになればいい」と言います。
サラリーマンとして給料をもらいながら、会社や業界から一人前と認められれば、フリーランスとして独立するのは難しくないからです。
村上さんが提示する目安は「1万時間(最短3年)働いてプロになる」「上司から『やめないでくれ』と引きとめられる」の2つ。
一定期間働いてみて、上司に「惜しい人材」と判断されれば、一人でもやっていけると考えてOKなのです。
あとは「職業名+フリーランス」で検索すると出てくる仕事の斡旋サービスのエージェントや、人脈、クラウドソーシングなどを使って仕事をとってくれば、フリーランスとしての第一歩を踏み出せます。
といっても筆者自身は「サラリーマンの延長線上」でフリーランスのライターになったわけではありません。前職は中古品ショップの店員と酒造会社の事務です。
しかしクラウドソーシングでコツコツと実績を積み、今ではクラウドソーシング以外の仕事も受けられるようになっています。このように考えると、必ずしも「サラリーマンの延長線上」が唯一の正解ではないということもできます。
しかし4年以上フリーランスのライターとして活動してみて実感するのは、「業界での経験や実績の有無はあればあるほど強い」ということです。
クライアントからの信頼感はもちろん、自分が仕事をするときに「これで合っているのか?」「知らないうちに業界のタブーを犯してないか?」という余計な不安を抱えないで済むからです。
したがって堅実に独立したいという人は、村上さんのいうとおり「サラリーマンの延長線上」でフリーランスになるべきでしょう。
ずっとフリーランスでいる必要はない

「サラリーマンの延長線上」でフリーランスになるということは、言い換えるとサラリーマンの先のキャリアとしてフリーランスを視野に入れるということです。
しかしこれは「フリーランスがゴールである」という意味ではありません。一度フリーランスになったからといって、そのままずっとフリーランスでいる必要はないからです。
村上さんはファーストキャリアとしてのサラリーマンとセカンドキャリアとしてのフリーランスのさきにあるサードキャリアとして以下の5つの進路を提案しています。
1.サラリーマンに出戻る
フリーランスとしての実績があり、フリーランスになった理由をきちんと説明できるのであれば、サラリーマンに戻ることも可能です。
村上さんの知り合いには子供のお受験で肩書きがいるからと、一部上場企業の課長補佐として会社員に戻った人もいるそうです。
2.起業してお金が生まれる仕組みを作る
一人でやるのではなく組織を作ってしまうのも選択肢のひとつです。筆者の知り合いのアメリカ人は、もともとフリーランスとして大手日本メーカーの取扱説明書などの翻訳を請け負っていましたが、現在は優秀な翻訳ライターを集めて起業し、自分は営業に専念しています。
3.クリエイターになる
自分の趣味を追求して作品を作り、それをマネタイズして稼いでいくという方法もあります。フリーランスになってまとまった休みをとっていれば、その中で趣味を深めることもできるため、必ずしも不可能な選択肢ではありません。
4.不労所得で暮らす
フリーランスの仕事でお金を貯めて、不動産投資や投資信託など自分の資産に働いてもらうというのも有力な選択肢です。
何も生活費の全てを不労所得で賄う必要はありません。例えば毎月30万円の所得が欲しいなら20万円分だけ働いて、あとの10万円を不労所得で賄うといったやり方もフリーランスなら十分可能です。
フリーランスで居続ける
フリーランスは何かと「長続きしない」と思われがちです。コンサルティング業界では40歳限界説、システムエンジニアやライターなら35歳限界説などがまことしやかにささやかれています。
しかし冒頭でも触れたように企業の採用形態も変わり始めており、今後はフリーランスの需要もさらに高まるはず。またこうした「限界説」というのはあくまで「淘汰される」という意味なので、実力や技術を磨いていれば40代、50代でも十分仕事はあるでしょう。
実際ランサーズには80歳をすぎてなおライターとして活動する島村泰治さんのような人もいます。
「フリーランスになったら終わり」と考えるよりは、こうして「その先にもキャリアがある」と考えた方が、フラットな目でフリーランスという選択肢と向き合えるのではないでしょうか。
キャリアとしての「フリーランス」という選択肢
不安定な収入や保障のなさ、同僚のいない孤独感など、フリーランスには確かにデメリットがあります。
しかしそうしたデメリットと引き換えに得られるのは、自分の人生を自由に裁量できるという大きなメリットです。
このようなメリットを「一握りの人間のものだから」という言い訳で諦めてしまうのはあまりにももったいない。フリーランスをあくまでキャリアの1ステップとして考え、もう少し現実的な選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
参考文献『半年だけ働く。』

