自分らしく働ける「女性管理職」になるには? 3つの壁と打開策を探る

男女共同参画社会の実現を目指し、「女性活躍推進」が叫ばれる日本。しかし、一部の先進的な企業を除き、日本社会全体では女性活躍が進んでいるとはいえない現状があります。2020年7月に内閣府男女共同参画局が発表した「男女共同参画白書」では、管理職を務める女性の割合が14.8%と、他国に比べて低い水準であることがわかります。

女性が力を発揮できる多様性のある組織構築は、SDGsの17項目のひとつであり、持続可能な社会を目指すには欠かせない視点です。では、どうしたら女性管理職が「自分らしい働き方」を実現できるのか。女性の活躍を阻む壁と、その解決策を探ります。

女性管理職がパフォーマンス向上の一助に

2020年にゴールドマン・サックスが発表した調査によると、ヨーロッパの上場企業上位600社のうち、女性リーダーが多い企業は、そうでない企業よりもパフォーマンスが高いことがわかりました。女性管理職や女性役員の割合が高い上位1/4と下位1/4を比較すると、上位の企業の株価が年平均2.5%上回っていたそうです。

同社はこの結果を分析して、以下のように述べています。

「女性の活躍が推進されている企業では、環境、社会、ガバナンスに焦点を当てた指標のパフォーマンスも総じて高い傾向があります。そのため、ESG投資により多額の資金を得られているのかもしれません」

ESG投資とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の3つの指標を軸に、企業を評価・選別して行う投資を指します。たとえば、環境に配慮したビジネスモデル、ダイバーシティの組織構築、社員の働きやすい環境づくりなどがわかりやすい視点でしょう。さらに、同調査では「女性のアプローチの多様化」と「優れた人材の獲得」にも言及しています。

「女性はより多様な意見を追加し、異なるアプローチをとる可能性があります。また、性別にとらわれない幅広い層から採用することで、優秀な人材を引き付けることができるかもしれません」

これらの内容から、女性活躍推進を含むESGに注力することで外部からの評価が上がり、結果的に事業成長にもつながる可能性があることが示唆されています。

打開すべき壁①「育児と仕事の両立」

とはいえ、女性管理職を増やす必要性は叫ばれていても、数値が伸び悩んでいるのが現実。今回は女性のキャリアアップを阻む3つの壁について、その原因と打開策を探ります。

打開すべき1つめの壁は「育児と仕事の両立」です。出産・育児のライフイベントにおいて、男性よりも長期の休暇取得や時短勤務をする傾向がある女性は、「いざというときに仕事を優先できない」などを理由に管理職候補から外されてしまいがち。しかし、女性活躍を目指すのであれば、柔軟な制度をはじめとした会社側のサポートが欠かせません。

女性活躍推進が進むIBMでは、1999年から在宅勤務ができる「e-ワーク制度」を、2004年から6割・8割の働き方が選択できる短時間勤務と裁量勤務を導入。これらは育児や介護などの個人的な事情に配慮した制度で、男女関係なく利用できるそうです。短時間勤務制度では、週3日勤務、あるいは朝に30分、夜に1時間を短縮するなどの非常に柔軟な働き方を選択できます。

さらに、子どもが満2歳までの育児休職、介護休職、看護休暇を設ける、育児や介護を経験した社員や社外の専門家によるワーク/ライフ・セミナーを実施するなど、育児・介護と仕事の両立を多方面でサポートしています。

働くことを免除するのではなくキャリア継続を支援する姿勢により、同社は2019年末時点で女性役員比率18%、女性管理職比率17%となり、国内で大きな評価を得ています。この数字だけ見ると少ないように感じるかもしれませんが、女性社員比率が23%程度であることを踏まえると、同社の女性社員の多くが管理職に就いていることがわかります。

このような柔軟な制度やサポート体制は、女性活躍推進には不可欠です。働きやすい環境が整っていない職場であれば、社内の女性社員で団結してアピールするなど、仲間を見つけて行動を起こすのが早道かもしれません。または、そういった環境が用意されている企業への転職を視野に入れてもよいでしょう。

打開すべき壁②「ジェンダーバイアス」

世界と比較して、日本の「ジェンダーバイアス」が根強いことも、女性活躍推進を妨げる大きな壁になっているはず。ジェンダーバイアスとは、男女の役割について固定的な観念をもつことや女性に対する差別や偏見などを指します。

たとえば、「男性は一家の大黒柱として外で働き、女性は家事・育児をこなして家を守るもの」、「男性は論理的で女性は感情的」といった偏った価値観をもつことは、ジェンダーバイアスのわかりやすい実例です。

企業内のジェンダーバイアスでは、大きく2種類があげられます。1つは「女性の能力が男性よりも劣っている」などの固定概念から、男性と平等な評価を得られないこと。同じ仕事をしているにもかかわらず男性のほうが高賃金、男性と平等な昇進のチャンスが女性に与えられていない、などが典型的な例です。

もう1つは、女性自身が感じている「自信のなさ」。管理職や起業家は男性が圧倒的に多く、そもそも男性と平等に評価されない現状から、「自分には彼らのような能力がない」と根拠なく思ってしまう女性も多いようです。

ジェンダーバイアスは目に見えづらいものであるため、「これが差別や偏見なんだ」と女性自身が自ら自覚し、それらを取っ払う勇気が求められます。周囲の人がもつジェンダーバイアスに対しては、それが差別や偏見であることを明確に示し、変化を促していくアクションが必要になるでしょう。その過程では、論理的思考に沿ったコミュニケーションや振る舞いを意識してください。

打開すべき壁③「モチベーション」

女性自身の管理職へのモチベーションの低さも、女性活躍推進を妨げてしまっています。男性の管理職が忙しそうだったり、責任が重く見えたりすると、管理職という役職が魅力的に見えず、多くの女性が物怖じしてしまうようです。加えて、ロールモデルとなる女性管理職が少ないためにイメージがつきにくい点も挙げられます。

女性自身が管理職へのモチベーションを上げて、自分らしいキャリアアップを目指していくには、まず「管理職になると残業漬けになる」という思い込みを捨てること。そして、少ないなかでも同性のロールモデルを見つけることから始めると良いかもしれません。

もし、現状の職場で管理職の残業や休日出勤が常態化しているようでも、管理職になることで業務改善を自ら提案・実行しやすくなるというメリットがあります。

実際、ある企業で管理職になった女性は、ムダの多い会議やルーティンなどを次々と改革し、残業の大幅減を実現しました。この事例のように自身の裁量が広がる、社内の情報がより幅広く耳に入る、人脈が増えるなどが管理職の醍醐味であり、仕事のおもしろさにつながるのではないでしょうか。

管理職だからといって最初から完璧を目指す必要はなく、困ったり悩んだりしたら周囲を頼ってもいい。そんなふうにプレッシャーを抱えすぎないことで、管理職の魅力に目を向けられるかもしれません。

理想の女性リーダーを探してみよう

世界の女性活躍推進の流れが示すように、いたるところで「女性のチカラ」が求められています。ワークライフバランスの重要性も理解されるようになってきた現代では、自分らしい働き方を実現させている女性管理職やリーダーが増えています。

まずは視野を広く持ち、理想的な働き方を実現している国内外の女性リーダーを探してみてはいかがでしょうか。仕事もプライベートも犠牲にしない、自分らしいステップアップの道が見えてくるかもしれません。

[文]小林 香織 [編集]サムライト編集部