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「対面開発」はSI業界の常識を変えた
「システム開発は時間もお金もかかる」
これがSI(System Integration)業界の、今までの常識でした。しかし対面開発という手法が誕生して以来、この常識は変わりつつあります。
ここでは対面開発がどのような手法なのかを紹介するとともに、ITエンジニアの目から見たメリット・デメリットについて解説します。
対面開発とは「その場でシステムを作り上げる」開発手法
対面開発とは、文字通りクライアントとオフラインもしくはオンラインで対面しながら、その場でシステムを作り上げる開発手法です。
今までのシステム開発と言えば、最初にヒアリングがあって、それをもとに要件定義を行い、毎回クライアントのレビューを挟みながら、概要設計、開発、修正と、多くの工数と時間をかけて作り上げていくものでした。
しかし対面開発は、開発を担当するITエンジニアが直接クライアントにヒアリングを行い、その場で要望に応じたシステムを構築。最後はでき上がったシステムにサンプルデータを入れてテストするところまで、一気に進める手法です。
クライアント側からすれば、自分たちの要望が目の前で次々とシステムに反映されていくという楽しさ、今すぐ使えるシステムがあっという間にでき上がるスピード感、いわゆる人月計算(※)での料金にならないため、大幅に開発コストが引き下げられるというメリットがあります。
このことから、対面開発サービスを利用する企業が増えてきているのです。
※人月計算……ITエンジニア1人が、1日8時間、20日間かけて処理できる仕事量(1人月)に応じてコストを計算すること。
「SI業界の闇」を解消してくれる?対面開発のメリット

対面開発にはクライアント側だけでなく、開発に携わるITエンジニアにもメリットをもたらしてくれます。それが「SI業界の闇」の解消です。
確かにSIerは、システムの開発を通じて企業の根幹にかかわり、業務改善や業績改善の一翼を担うことができるやりがいのある仕事です。しかしさまざまな「闇」が存在するのも事実です。
・単純作業ばかりが延々と続き、一向にスキルらしいスキルが身につかない。
・大手からの下請けが多く、クライアントの顔も見えないせいで、仕事の達成感がない。
・炎上案件にアサインされたせいで、連日徹夜続き。
・クライアントの意思疎通がうまくいかず「せっかく作ったシステムを使ってもらえない」が多発。
こうした問題の原因の一つが、開発を工程別に分け、モジュールごとに開発するウォーターフォール方式と、それに伴う多重下請け構造。
ですが対面開発であれば、開発がその場で完結するうえ、ヒアリング〜納品までの一連の流れを開発担当者であるITエンジニア1人が請け負うため、スキルアップ、やりがい、労働時間、さまざまな面の問題が解消しやすいのです。
対面開発に向いている案件と向いていない案件があるため、すべての案件で対面開発がベストだというわけではありません。しかし「SI業界の闇」に悩みを抱えている人にとっては、新しいキャリアの選択肢として非常に魅力が多い開発手法だと言えるのです。
開発スキル+問題解決スキルが必須!対面開発のデメリット
一方で、ITエンジニアが対面開発に携わるには、高い開発スキルと問題解決スキルが求められます。理由は大きく2つあります。
一つは、開発に使うことができる時間が短いからです。まず、決められた時間内にクライアントが求めるシステムを実装レベルにまで仕上げなければなりません。
しかもクライアントが見ている目の前でシステムを組んでいくことになるので、単なる手の速さだけでなく、プレッシャーに耐えながら開発を進めるメンタルも必要です。
これらに対応するには、スピーディかつ自信をもって作業を進める高い開発スキルが必須となります。
もう一つの理由は、クライアント側の担当者がそもそも組織の抱える課題をミスリードしているケースも少なくないからです。
たとえばクライアントが「営業事務の業務効率化を図るシステムを作って欲しい」と言ったとしても、そもそも組織の問題が外回りをする営業マンの業務にあるのなら、その問題を解決するシステムを作る必要があります。
あるいは対面開発は複雑な計算処理をする財務会計や管理会計といった業務と相性が悪いとされています。そうした場合はより適切な開発手法を提案するなど、状況に適した対応が求められます。
確実にクライアントから情報を引き出すヒアリング力。引き出した情報をもとに課題を明確化する分析力。分析結果から最適解を導き出す思考力。それらをノンプログラマーにも伝わる言葉で説明・提案する言語力。
対面開発に携わるITエンジニアには、こうした開発スキル以外のスキルもたくさん求められるのです。実際せっかく転職しても、求められるレベルの高さから再び転職してしまう人もいないわけではありません。
したがって、まずは自分がどういった環境で輝けるITエンジニアなのか、本や雑誌、転職エージェントなどを活用して見定めること。そうして自分に対面開発での適性があるかどうかを吟味してから、転職活動をスタートさせることをおすすめします。
ITエンジニアとしての「次のステップ」

対面開発をうまく活用できれば、従来のシステム開発が抱えていた問題を解消し、クライアントにとってもITエンジニアにとっても、WIN-WINの状況を作り出すことができます。
一方で、開発に携わるITエンジニアには、これまで求められてきた開発スキル以外に、高い問題解決スキルも求められるようになります。
ITエンジニアにはさまざまなキャリアパスがありますが、対面開発という開発手法が生まれたことで、問題解決スキルを兼ね備えたITエンジニアになるというキャリアパスも、選択肢の一つに加わったと言えるでしょう。
自分の適性を吟味したうえで、次のキャリアの選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部