2025年は「買い物」をしない時代に?デジタルマーケティングのプロが語る「未来の消費」とは

コロナ禍により、人々の消費や価値観に大きな変化の波が訪れています。「買い物ゼロ秒時代の未来地図――2025年、人は「買い物」をしなくなる〈生活者編〉」の著者であり、デジタルマーケティングのエキスパートである望月 智之さんは、「コロナによって5年後に起こると予想していた未来が2020年に現実化した」と語ります。

さらに本書では、EC先進国のアメリカや中国の動きも取り入れながら、2025年の消費の展望がつづられています。本記事では、本書を参考に今後のビジネス戦略の道しるべとなる「未来の消費」を探ります。

コロナで到来。2020年に起きた「消費の大転換」

2020年4月、全国に緊急事態宣言が出されると、私たちの生活は一変しました。とくに多くの人が通勤する首都圏では、テレワークが広く導入されたことにより一気に人影がまばらに。オフィス街にあったコンビニ、レストラン、居酒屋などは、営業が困難になるほど追い込まれ、やむなく閉店した店舗も少なくなかったようです。

一方で、大きく売上が飛躍したのがEC、そして住宅街にあるスーパーマーケットやコンビニ、薬局などでした。おそらく、自身の行動を振り返ってみると、ほとんどの人が「近所の店とオンラインでの買い物」の量が急増しているはず。

本書で紹介されている40代の男性にいたっては、コロナ禍の数ヶ月間、ほとんど外に出ない生活を送っていたとのこと。日々の食材はAmazonの生鮮食料品部門「Amazonフレッシュ」を使って日用品類はすべてECサイトで購入、ときどきフードデリバリーも利用して、数ヵ月過ごしていたそうです。彼の場合、100%テレワークで実質的に外出する理由がなかったことも大きいでしょう。

この男性の例は極端ですが、それでも「ほとんどの買い物はオンラインと近所だけで済ませられる」と多くの人が実感したのは事実といえます。その影で、オフィス街の小売店や大型商業施設の売上は激減。これこそ、著者の望月さんが「2025年頃に起こる」と予想していた消費のスタイルであり、5年ほど早く2020年に訪れてしまったことで、多くの企業に混乱をもたらしました。

2021年が半ばを過ぎた現在、この変化の影響を大きく受けた企業・店舗は続々と縮小や廃業に追い込まれており、「消費の大転換」がいかに激しい変化だったかを物語っています。

ますます重要視される生活者の「口コミ」

この変化に伴い、生活者が「モノを買う場所」にこだわらなくなっているという指摘も。商品が置かれる場所も「リアルの棚」から「デジタルシェルフ」にシフトし、店頭の目立つ場所に置くことよりも、ネット検索で上位をとるほうが重要だと望月さんは述べています。

それと同時に重要視するべきは、ネット上の「口コミ」。オンラインでの買い物客の97%がレビューを読み、89%が購入の意思決定のための情報源として考えているとのこと。

匿名で書き込むことができるネット上の口コミは、企業側の意図などは関係なく、生活者の本心が現れやすい特徴があります。消費者は、「メリット」と同じくらい「デメリット」も知りたいもの。企業側はプロモーションにおいてメリットばかりを主張する傾向がありますが、口コミでは多くのデメリットも投稿されているため、口コミに信頼を寄せる人が多いこともうなずけます。

ブログや商品販売サイトにおける口コミも重要ですが、近年、存在感を高めているのは、私たちの日常に溶け込んでいる「SNS」。本書では、2020年のライフスタイルの変化により、「画像系SNS」の次の時代の波が一気に押し寄せていると指摘されています。

デジタルマーケティング企業Glossomが行った「スマートフォンでの情報収集に関する定点調査2020」によれば、YouTubeの利用時間は16.0分(2019年)から27.8分(2020年)と10分以上増加。本書では、「You Tubeこそが口コミの一等地ともいえる」と書かれています。今後、5Gの利用者が増えることも画像や動画の閲覧を後押しするはずです。

なぜ人気?リーディングカンパニーの事例

では、実際に時代の変化の波にマッチする先進的なサービスとは、どんなものなのか。本書からいくつか抜粋して、ご紹介します。

●日用品を30分以内に届ける「Gopuff」

Gopuff」の公式HPより

2013年に2人の学生によって創業されたアメリカのスタートアップ「Gopuff」は、コンビニで買えるような食料品、洗剤、市販薬、赤ちゃん用品などの商品を30分以内に届けてくれる、「日用品版Uber」のようなサービス。

配送料は1.95ドル(約220円)と気軽に注文できる価格帯であり、「今ほしい」ものをすぐに届けてほしいという需要を満たしてくれるそう。HPには、「具合が悪いときに、すぐに市販薬を届けてくれた」「コロナ禍に家を離れる必要がなくなる」といった口コミが掲載されており、Amazonに対抗しうるほど存在感が高まっているようです。

従来のデリバリーサービスとは異なる画期的なビジネスモデルにも要注目。同社では、商品在庫を「一般家庭」にストックしているのです。誰でも希望すれば「Gopuff」のフランチャイズになることができ、商品が売れるとロイヤリティが入る仕組み。このユニークなアイディアによって、広大なアメリカで30分以内に注文品を配達できるサービスを成立させました。

●複数人の来店を狙う、高機能・低価格な「ワークマン」

「高機能×低価格のサプライズをすべての人へ」をコンセプトにしたワークマンプラス。ワークマンの公式HPより

作業服専門店のワークマンは、ここ数年間、右肩上がりで売上を伸ばしている注目企業のひとつ。本書では、ワークマンの人気の理由が主に3つ挙げられています。

1、小商圏で店舗を展開している

生活者の生活圏内に店舗をもっており、「ECサイトよりも早く手に入れたい」というニーズを満たすことができます。

2、原価率が高い

多くのモノづくりの企業では、利益を出すために「原価率を1%でも下げる」と考えられることが一般的。ですが、ワークマンでは「原価率は最低65%」というルールがあり、65%を切る場合は付加価値を付け足して、原価率の不足を満たしています。

3、2人以上で周りやすい店内

ワークマンでは、より客単価の高い2人以上で来店してもらえるよう、親子や夫婦、友人同士など複数人の顧客が店内を周りやすい動線になっているそうです。

2030年の消費はどうなる?

本書のラストでは、著者が考える「未来の消費」が展開されています。未来の消費に「オンライン」はますます欠かせないものとなる一方で、実店舗のあり方が変わっていくそう。

EC大国の中国では実店舗の出店がブームになっており、これは生活者の関心が「体験」に移り変わっているという現れだと指摘されています。これから増える実店舗では、その場でできる体験とデジタルが融合しているのがポイント。商品が「その場で買える」ことよりも、使ってみたり、試着してみたりできる「体験」に価値が置かれます。

そのため棚に商品在庫が置かれず、オンラインへ誘導する案内があるだけ、という店舗もめずらしくなくなるとのこと。これが2020年代の店舗のトレンドになるだろうと筆者は予測しています。

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ただし、先程の「ワークマン」の事例でも述べたように、徒歩10分以内(地方なら車で10分以内)にある小商圏の店舗は、「モノがすぐに手に入る」利便性ゆえ、しばらくは欠かせない存在に。いずれは、AIによって生活必需品が必要なタイミングで自動的に送られてくるかもしれませんが、すぐにガラリと変わるわけではないようです。

ECの進化についても、興味深い考察がされています。本書では、「目的」のある買い物がメインの第1世代、ほしいモノを見つけやすい「発見」に価値が置かれた第2世代に続き、第3世代のキーワードは「楽しい」だと主張。

この「楽しい」を演出するものがSNSであり、一つの例として複数人で購入することを前提とした「ソーシャル型のECサイト」が紹介されています。これは、ほしいものがあっても1人では買えず、必要な人数がそろって、初めて購入できるというシステム。

このシステムで注目されているのが、中国のECサイト「拼多多」(ピンドゥドゥ)です。2015年にサービスがスタートし、2020年3月時点の利用者は6億人を突破。創業から2年半で流通総額は740億ドルにのぼり、世界でもっとも短期間で流通総額が上がっているECサイトといわれるほど、驚異的な伸びを見せています。

企業は「共創」しないと生き残れない時代になる

本書を読み進めるにあたり、著者の力強いメッセージが表れていたのが、「企業は共創したほうが良い、ではなく、“共創しなくては生き残れない”時代になる」という一文。

生活者が買い物を「楽しい」と感じれば感じるほど、生活者と企業の距離が近づき、両者が「共創」してサービスや商品をつくり出すように。さらに、人の考えや行動のデータをひもづけることで、ますます便利で、楽しい買い物の体験が増えていくと著者は語っています。

大胆な改革が苦手とされている日本社会・企業ですが、予想よりだいぶ早く消費の大転換が起こってしまったのだから、「変わる」しか道は残されていないかもしれません。今、どんな変革をするべきか。本書は、そのヒントを与えてくれる1冊でしょう。

[文]小林香織 [編集]サムライト編集部