横浜DeNAベイスターズに学ぶファンの増やし方

yokohama_stadium_2007_-3

5年間最下位争いでも球場は連日満員だったワケ

横浜DeNAベイスターズは、2011年末にDeNAが買収する前から現在に至るまで、リーグの最下位争いを続けているプロ野球チームです。おっと失礼、今年は横浜DeNAベイスターズ初となる、クライマックスシリーズ進出が決定しているので最下位争いではないですね。2011年に年間110万人だった来場者数は、2015年には181万人となり、51億円だった売上高は93億円にまで上昇。今季は黒字化に成功する見込みです。

球場は連日満員、チケットはプレミアム化して入手困難になることもしばしばあります。なぜチームは負けることも多いのに、球団の経営は改善しているのでしょうか。その答えは住友商事、博報堂を経てDeNAに入社し、買収と同時に代表取締役社長に就任した、池田純さんの経営方法にありました。

TOP画像出典:Wikipedia

野球好き「以外」を巻き込む

「球場でのプロ野球観戦は、野球好きのためのもの」このような固定観念を持ったままでは、縮小化していくプロ野球市場では生き残っていけません。池田さんはまず横浜スタジアム(通称「ハマスタ」)の来場者を「ヘビー層」「ミドル層」「ライト層」に分けました。

・ヘビー層→年10回以上の来場者。
・ミドル層→年4〜9回の来場者。
・ライト層→年1〜3回の来場者。

ヘビー層はまさに野球好きであり、横浜ベイスターズ好きの層です。この層の人たちは投資で言えば「エンジェル投資家」のようなもので、重点的にアプローチをしなくても顧客であり続けてくれます。一方でライト層の人たちはプロ野球観戦を映画鑑賞・コンサート・居酒屋などと同じ娯楽の1つとしてしか考えていません。

池田さんはこのライト層に様々な施策を講じていきながら、より具体的にターゲットを絞り込んでいきました。すると30〜40代の働き盛りの男性層、中でも仕事終わりに飲みに行ったり、週末はアウトドアやスポーツに興じたりしている、アクティブな層が浮かび上がってきたのです。池田さんはこの層を「アクティブ・サラリーマン」とネーミングし、全社的な施策のターゲットに設定します。

ターゲットを設定することの最大のメリットは、社員がどう動くべきかが明確になることです。「アクティブ・サラリーマンは普段どこで遊んで、どんなことに興味があるんだろう?」と考えたり、調べたりするようになるだけで、組織全体のパフォーマンスは上がっていきます。

大切なのはリーダーがはっきりと、的確にターゲットを示すことです。池田さんがこれをしたからこそ、ベイスターズは急速に野球好き以外の顧客層を拡大できたのです。

「戦う空気」を共有できる組織になる

池田さん就任当時の球団には「なぜ変わらなければいけないのか?」「なぜ球団なのに黒字にしなければいけないのか?」という疑問を持つ社員も多かったそうです(プロ野球ビジネス界では球団が赤字なのは珍しくない)。このような組織では到底現状を打破できないと考えた池田さんは「戦う空気」を共有できる組織にするべく、様々なアクションを起こしていきます。

そのうちの1つが「人事と業務のシャッフル」です。仕事に慣れてくると、人は「自分にしかできない仕事」や既得権益を守りたくなるもの。しかしそんなことをすれば本人もその下も成長しないままです。これを防ぐには配置換えが最も効果を発揮します。

しかも広告部門で活躍したら営業に、営業で活躍したらイベント運営に……と配置換えを繰り返しているうちに、社内にはマルチに仕事ができる人材がどんどん増えていきます。すると組織の基礎体力が鍛えられていきます。仮に誰かが転職・退職した場合も、すぐに別の人材がその穴を埋められるようになるのです。

もちろんこの時の配置換えは、前の部署で身につけたスキルをどこかで生かせる人事でなければなりません。でなければ異動させられた本人は「せっかく前の部署で頑張ったのに、全部無駄になった」とモチベーションを下げてしまいます。理不尽な配置換えではなく、社員の背中を押すような配置換えを頻繁に行う。これが池田さんが「戦う空気」を作るために行った施策の1つです。

「横浜に根付き、横浜と共に歩む」というストーリー

yokohama-stadium-2014-08-19-jpeg
画像出典:Wikipedia

ベイスターズの人気の秘密は、DeNAによる買収後に「横浜に根付き、横浜と共に歩む」というストーリーを積極的に打ち出していった点にもあります。

2016年1月21日に成立した横浜スタジアムのTOB(株式公開買い付け)も、このストーリーがあったからこそ成功した施策の1つです。ストーリーがなければ「球団が黒字経営のために球場を買った」という、球団都合の動きとして捉えられる可能性があります。

これでは「いつか横浜で経営がうまくいかなくなったら、他の地方へフランチャイズ移転してしまうのでは?」という不安をファンに植えつけかねません。しかし「横浜に根付き、横浜と共に歩む」というストーリーをアピールしていれば、「これからも横浜に根ざしていくためのTOBです!」と言い切ることができます。

またユニフォームのデザインからDeNAの企業ロゴを削除し、大きく「YOKOHAMA」と描いたデザインに変更したのも、このストーリーを踏まえてのことでした。日本のプロ野球球団には、広島東洋カープを除く全球団に事実上の親会社があります。

そのため球団は親会社の広告塔としての役割を担っており、ファンからすれば「企業の操り人形」に思えてしまう部分も少なくありません。このような企業感を拭い、地元密着感を前面に押し出すためのユニフォーム変更だったのです。

広告には徹底的にこだわる


※引退を表明した三浦選手を讃えるポスター

池田さんはベイスターズの広告イメージも刷新しました。「日本一の街・横浜」という街のブランドイメージにシンクロさせ、「おしゃれでカッコイイ」ベイスターズを伝えるためです。実際、2015年3月15日〜4月5日に掲げられた、大型複合施設「クイーンズスクエア横浜」の縦横10メートルの超巨大広告を始め、DeNA買収後のベイスターズの広告は打ち出し方もデザインも、以前に比べて洗練された印象があります。

これは池田さんの「広告=顧客とのコミュニケーション」という認識からきています。顧客との直接的な接点だからこそ、絶対に手を抜かないのです。

そのため自分たちのコンセプトが曖昧なまま、クリエイターにデザインを丸投げしたり、リテイクを出したりもしません。ベイスターズでは情報を発信をするときは、大小問わず担当者が必ず1つキービジュアルを作ることをルール化しています。

企画やイベントにピッタリくるものを担当者が何回も、何十回も考え直すことで、コンセプトが洗練されていき、結果それにぴったりの広告を作ることができているのです。

こうしたこだわりは、実力のあるクリエイターに依頼をするためにも必要不可欠です。広告代理店に依頼する場合、トップクリエイターに担当してもらえるのは数十億円規模の予算を持つ一部の重要案件だけです。仮にトップクリエイターに担当してもらったとしても、依頼側のコンセプトがあやふやでは成功は保証されません。

フリーのクリエイターになれば今度は「案件の面白さ」が、デザインへのモチベーションに直結します。つまり広告代理店に依頼するにしろ、フリーのクリエイターに依頼するにしろ、依頼者側が「何を、どう伝えたいのか」をはっきりさせておかなければ、効果的な広告は作れないということです。

古いビジネスモデルにこそイノベーションの可能性がある

池田さん就任当時の球団に「なぜ変わらなければいけないのか?」「なぜ球団なのに黒字にしなければいけないのか?」という社員が多かったことからもわかるように、プロ野球ビジネスは非常に古い体質を持っています。

こうした古い体質が根強く残っているビジネスモデルほど、その体質さえ変えてしまえば一気にイノベーションが起きる可能性が高くなります。その先例の1つが横浜DeNAベイスターズです。「うちの業界には色々あるんだ」と思い込んでしまっている人は、ぜひ池田さんの経営を参考に、常識を打ち破るための一歩を踏み出してみましょう。

参考文献『空気のつくり方』
Career Supli
横浜に住んでいますが、野球に興味がない人たちもイベント感覚で気軽に遊びに行っている印象です。横浜スタジアムは、駅から近くて公園の中にある気持ちの良い環境です。ぜひ一度足を運んで浜スタの熱気を感じてください。
[文・編集]サムライト編集部

yokohama_stadium_2007_-3