研究のプロフェッショナルに囲まれて仕事をしたい 大学助教の願いを実現した「ビジョンマッチング」

「アカデミアから民間への移籍は難しい」「民間企業にアカデミアの研究者はなじめない」
そのような思い込みが両者を隔てている現実がある。その隔たりは、取り払えないものだろうか。

「『人財躍動化』を通じて、社会を変える」をビジョンに掲げる The Adecco Group。同社では人財紹介に特化したサービスを展開する「Spring転職エージェント」は、アカデミアの人財と企業をつないできた多くの実績を持つ。そこには「ビジョンマッチング」という同グループが全社で共有する独自の手法が生かされている。

生き生きを働ける職場の獲得を誰もが実現できるようにと考えられた「ビジョンマッチング」とは。同社ライフサイエンス&メディカル紹介部 製薬課コンサルタント、藤田亮氏の事例からひも解く。

民間企業に受け入れてもらえるかと内心を明かすアカデミア研究者

S氏は関西のとある大学法人の助教で、タンパク質構造解析を専門分野とする勤続9年を迎える中堅どころの研究者。藤田氏は自身が担当する大手製薬会社が求める最適な人財だと考え、S氏とコンタクトをとった。

藤田氏が所属するライフサイエンス&メディカル紹介部 製薬課は、製薬会社を中心に、CRO、CSO、SMOなどの案件を受託、支援機関やライフサイエンス領域など、創薬に関わる企業全般を担当する部署だ。藤田氏が扱う案件もすそ野が広く、直近8年の中で160件余りの転職を成功に導いてきた。近年は、研究分野の案件が多い。

Spring転職エージェントは、転職希望者の会員登録を入口としてコンサルティングに入るが、「Web上の人財情報や論文などで、これぞと思う人がいればこちらからアプローチすることもある」という。同社の転職サービスは、ひとりのコンサルタントが求職者と求人企業の仲介を双方向で行う「360度のコンサルティング」を特色としている。
求人側の企業ビジョンや採用傾向などを担当者がよく心得ているので、このように人財発掘から紹介までを一貫して行えるのである。

S氏の転職もこのケースに当たる。

藤田氏の声がけにS氏はすぐ応じ、「ビジョンマッチング」のヒアリングを受けた。
藤田氏はこのヒアリングを丁寧に行うことを、常に心がけている。「ビジョンマッチング」を通して、求職者の転職希望のみならず、キャリアビジョンやライフビジョン、すなわち求職者が転職後の自信の将来をどう思い描いているかを言語化し深堀する重要なプロセスだ。

「人財を右から左に動かすだけでは、人財を生かすことにはつながりません。『こうありたい自分』を実現するのが転職の目的ですから、自身の将来像を自覚して、企業の持つビジョンをマッチングしていくことが大切なのです」

多くの場合、事前ヒアリングは1回では済まない。
自身の今と将来に向き合ってもらうため、必要なら何度でも話を聞く。「時間を置いて考えてもらうことも大切」なのだという。
転職理由や要望をたずねる第1回目のヒアリング。Sさんは前向きだったが、思わずポロリと不安も口にした。

「私のような(アカデミア経験の長い)者でも、民間企業に就職できるものでしょうか」
藤田氏には、Sさんの心情がよく理解できた。それは、転職意向を持つアカデミア人財の多くが、内心抱いている不安だった。

アカデミア人財の受け入れ土台があるか、ひとりの転職活動では難しい見極め


昨今、大学教員は厳しい状況にある。十分な研究費を獲得しくいうえに、定年の延長で上のポストに空きが出にくい。論文が国際的な評価を得ているというSさんだが、このような背景から助教のポストが長くなり、「将来の見込みが立たない」ともこぼしていた。

「しかし、転職理由として大きかったのは、日本の大学の研究環境に対する不満でした」と藤田氏はふり返る。「Sさんは留学経験があり、海外の大学には研究に没頭できる環境が整っていて、日本の大学とは格段に違う。帰国してからそのことに気づき、研究者として自分の置かれた境遇に対して『このままでいいのか』と思うようになった」と言っていました。

S氏のビジョンに基づいて、藤田氏がS氏に紹介したのは、大手製薬会社のA社。その提示にS氏も興味関心を持った。「Sさんが指導した教え子には、A社に就職した人も何人かいて、研究に打ち込める環境があることを聞き及んでいました」それがA社への転職を志望する強い動機になった。
しかしながら、先述したように、アカデミア出身者をA社が歓迎してくれるのかどうかS氏は心配していた。

「そこは企業によってかなり差があります」と藤田氏はいう。「これまでにアカデミアの研究者を多く採用してきた経歴がある会社は、受け入れ土台ができていますから抵抗感を持っていません。民間企業のやり方に慣れないアカデミア研究者を、先輩の研究者がフォローするような体制も醸成されています」

ところが、受け入れ経験の少ない企業のなかには、不慣れで困っていても、何に困っているか理解できないまま、アカデミア出身者を手助けするでもなく、放置するところもあるため、状況に嫌気がさして辞めてしまう例も少なくない、と藤田氏はいう。残念なミスマッチから「アカデミアの研究者は、民間企業になじまない」という風評も生まれる。

「見極めが大切なのですが、アカデミアの研究者、とくに大学に所属している方のほとんどは、民間企業の社内事情はよくわからないため、見極めは難しいと思われます。産学の共同研究を数多くこなしてきた方ならば、話は別かもしれません」

S氏を紹介されたA社も前向きだった。
バイオ医薬品の開発に力を入れている同社は、藤田氏の見立てどおりS氏の応募を歓迎した。実は、S氏が募集したポジションは、S氏の研究領域に合致しなかったのだが、企業側がS氏に合わせるようなかたちで、本来であれば次年度以降に新設する予定のポジションを前倒しで用意したものであった。あとはとんとん拍子に話が進むものと見ていた矢先、Sさんの心を揺るがすできごとが起きた。

求職者に大切にしてほしいのは「自分が輝く場所」を見出すこと


A社の一次面接を良好な感触で終えた頃、別の人財紹介サービスも利用して転職活動をしていたS氏のもとに、他の製薬会社2社から内定が出た。そのうちB社は研究ポジションではなかったので辞退したものの、C社からの内定にS氏の心が動いた。

「C社もS氏の採用には大変積極的だったようです。A社の勤務地が関東に対し、C社は関西。S氏は関西在住なので、家族のことを考えると、転勤せずそのまま関西に住み続けたいという期望がありました」転職は当人だけの問題ではなく、家族にとっても大きなイベントだけに、その意向も無視できないポイントだ。
藤田氏は、S氏が家族の意向を汲むなら、一向にかまわないと思ってはいたが、少し引っかかるところがあった。

「ヒアリングを通して、Sさんは『レベルの高い研究のプロフェショナルに囲まれて仕事がしたい』と自身のビジョンを語っていました」そのビジョンに照らしたとき、C社はS氏にとって最良の選択なのか。
「C社の内定がでた後も、Sさんが本当はA社に行きたいと思っているのは感じとれました。そこで『もう一度、自身のビジョンと向き合ってみてください。

そのうえでご家族とも再度話し合ってみてはいかがでしょうか』と申し出ました。」家族のためにC社へ行くのもひとつの選択ではあるが、本心を曲げての選択が当人の躍動につながるのか。“自分が輝く場所”を獲得してほしいという想いからの言葉だった。結果、最終的にS氏はA社を選んだ。

この転職事例のポイントは、求職者と求人企業が互いに歩み寄り、両者のビジョンを合致させたことにある。S氏のように有能な研究者なら、転職に難はないと思われるかもしれない。
しかし、引く手あまたの人財であったとしても、本人が希望するポジションが得られるとは限らない。

藤田氏が白羽の矢を立てるというS氏との出会いがなければ、S氏のビジョンに沿った転職はかなわなかった。
また、藤田氏の介在がなければ、S氏とA社が互いに歩み寄ることもなかったと言える。ちなみにこの転職では年収が上がったのだが、それもS氏が迷った末に最終的にA社に決めたポイントのひとつだ。

「ベテランで実績のある転職コンサルタントには、ビジョンマッチングのような手法を用いている人もいると思います。
けれどもSpring転職エージェントの大きな特色は、キャリアにかかわらず、すべてのコンサルタントがビジョンマッチングのスキルを身につけているところにあります」

現在は転職を考えていなくても、民間企業の採用に関する情報収集をしたいというのでもかまわない。
「とくにアカデミアの方には、自身の仕事や将来的な可能性についての視野を広げる意味で、気軽に声をかけていただければと思います」と藤田氏は言葉を結んだ。

Spring転職エージェント
コンサルタント:藤田 亮

慶応義塾大学経済学部卒。新卒で石油卸会社にて営業職を経験。よりエンドユーザーと関わる仕事をしたく総合人財サービス会社であるアデコ株式会社に転職。人財紹介部門で営業を経験したのち、現在は転職コンサルタントとして主に医薬、医療機器業界の営業、治験を専門領域に担当。深い知見を軸にした転職支援は求職者、企業双方からも支持されている。