「戦力としての障がい者雇用」を実現したアデコグループの取り組み

2018年4月1日から、民間企業(従業員45.5人以上)における障がい者の法定雇用率が2.2%引き上げになり、2021年4月までには2.3%に引き上げられることになっています。しかし厚生労働省の調査によれば、2018年6月1日時点の法定雇用率達成企業の割合は全体の45.9%となっています。

未だ半数以上の企業が未達成という状況にあり、雇用そのものは達成できている企業の中にも「障がい者の労働力を戦力化出来ていない」と見受けられるところも少なくなく、まだまだ障がい者雇用が一般化しているとは言えない状況です。

今後、日本の労働人口がさらに減少するなか、企業のダイバーシティの必要性はますます高まっていきます。また、社会におけるハード・ソフト両面のバリアフリーが進む中で、これまで以上に活躍の舞台を求めている障がい者の方々も増えているはずです。

そのような状況に対応するには、障がい者雇用が「雇用のための雇用」から「戦力としての雇用」へシフトしていかなければなりません。
しかしどうすれば、「戦力としての雇用」が実現できるのでしょうか。

今回は、LHH転職エージェント工藤雄一さんとアデコビジネスサポートの白山はるみさんにお話をお伺いしました。

企業が抱える障がい者雇用の難しさ

―障がい者雇用に関して、企業は現状どのような問題を抱えているのでしょうか?

工藤雄一さん(以下、工藤):「自社の考える採用したい人が見つからない。見つかっても残念なことにすぐにやめてしまう」ということと、「実際にどのような仕事をしてもらえばいいかわからない」ということですね。

この点については障がい者雇用でなくても同じですが、首都圏で優秀な人材を採用しようと思うと、採用意欲の高い企業も多く、競争率が高くなってしまいます。そのため、採用したい人材に出会うことが難しい状況です。

加えて、首都圏は通勤ラッシュもあり障がいを抱えていなくても通勤が大変な環境ですから、障がい者の方にとってはもっと大変です。結果として、「通勤が大変すぎるので辞めざるを得ない」という話になるわけです。

精神障がい者の方場合は、障がいが目に見えないぶん企業側のサポートが難しいため、ミスマッチを起こしてしまうケースも多くなっています。

―「どんな業務を担当してもらえばいいかわからない」というのは?

工藤:障がい者の方々にはそれぞれの状況に応じた「配慮事項」があります。「電話で知らない人と話すのが苦手」とか「同時並行で別々の仕事を処理するのが苦手」といったものです。

企業の中には、こうした事項に配慮すると、やってもらえる仕事がなくなってしまうところも出てきます。すると現状の業務を細分化して、雇用した障がい者の社員のための仕事を作らなければならない。

例えば「名刺のデータ化」や「手書き資料をデータ化」という仕事を作って、障がい者チームに担当してもらっている企業も多く存在しますが、IT化、AI化により、単純作業の自動化は今後ますます進んでいきます。

「雇用のための雇用」から「戦力としての雇用」へのシフトができなければ、企業にとっても、雇われる障がい者の方々にとっても、ジリ貧になる可能性は十分あります。

アデコビジネスサポートが実践する「戦力としての障がい者雇用」

―アデコビジネスサポート(以下、ABS)では170名の障がい者を雇用しているとのことですが、どのような業務を受託しているのでしょうか?

白山はるみさん(以下、白山):書類発送業務、社会保険関連業務、事務補助業務、求人関連業務の代行などです。多くの方は、何をどうやればいいかが決まっている定量的な業務を担当しています。

ただ、定量的な業務以外にも受託していこうという動きがあって、今ちょうど新規登録者向け電話インタビュー業務が3年目に入ったところです。

―新規登録者向け電話インタビューというのは?

白山:登録者の方の職歴や要望のほか、キャリアビジョンなどもヒアリングし適職紹介を行う業務です。相手によって質問を変えたり、深いコミュニケーションをとったりする必要があるので、定量的な業務ではありません。でもABSのメンバーは、今までよりも責任の重いこの業務にやりがいを持って臨んでくれています。

工藤:以前ABSのミーティングに参加したことがあるのですが、みなさん非常に仕事への意欲が高く、向上心の高い人が多い印象を受けました。

白山:そうなんです。だから今後、電話インタビューの業務は全国的にABSで受託していこうという話が進んでいます。

―全国的に、ですか?それはすごいですね。インタビューのような複雑な業務をこなしてもらおうと思うと、優秀な人材をたくさん採用する必要があると思いますが、ABSはどのように採用しているのでしょうか?

白山:ABSには170名の障がい者が勤務していますが、そのうちオフィスに出勤しているのは6割弱で、残りの4割強の方は自宅でのリモートワーカーです。北海道から九州まで、全国各地に散らばっています。

どうしてこんな体制をとっているのかというと、先ほども話したように、首都圏は競争率が高く、優秀な人材を採用するのが難しいからです。でも「首都圏のオフィスに出勤すること」という条件をなくすと、地方では優秀な人材がたくさん見つかるのです。

採用前の面談でこそ、実際に会ってお話をしますが、それ以降は基本的に会わずに仕事をしています。PCとiPhoneを貸与しているので、TeamsやZoomでミーティングをしたり、研修をしたり……日常のやりとりはチャットだけで完結しています。

―4割強の方がリモートワーカーとなると管理が大変そうですが……。

白山:そのあたりは試行錯誤してきましたね。定量化できるものは週あたり、月あたりの仕事量で管理できますが、そうでないものは部署ごとに指標を作って定量化に努めてきました。結果として、今はうまく機能しています。

―先ほども出た「配慮事項」に関してはどう対応していますか?

白山:定量的な業務に関しては業務を細分化して、従業員の個性に応じて配分して対応しています。最初はうまくいかないこともありましたが、今は得意・不得意の把握ができているので、ジョブローテーションの必要もなくなってきました。

電話インタビューの業務に関しては、リモートワークでの対応、フルフレックスによる通院しやすいシフト体制・サポート体制といったところで配慮させていただいております。

残業もほぼない体制をとっておりますので、自身で時間管理ができ身体にも負担が少ない状況で業務ができています。

チーム内でも障がいの種類や重さは様々ですが、メンバー間で補い合ってくれるのでチームのパフォーマンスも維持されています。不調なメンバーが出てくると「今月は調子いいから、私が頑張るよ」といった具合です。

工藤:LHH転職エージェントからもABSに仕事をお願いすることがありますが、何の違和感もなく業務をこなしてくれています。

もちろん適切な配慮は必要ですし、アデコグループではそのための研修も実施しています。でも、それを踏まえたうえで、障がいは個性の一つでしかなくて、きちんと業務環境を整えれば、彼らは十分戦力になってくれるんです。

LHH転職エージェントが提供する障がい者転職/採用支援サービスの強み

―ABSのような会社がグループ内にあるというのは、障がい者転職/採用支援サービスをするうえでの強みになるのでしょうか?

工藤:障がい者雇用を行う企業で例えば農作業等を新規で開始し、そこで障がい者雇用を行う企業もありますが、たいていの企業で障がい者を雇用するとなると、本業に関連する業務に就いてもらうことになります。アデコグループは人材サービスが本業ですが、ABSもその本業にフルコミットメントしていますから、実績と実体験に基づいた提案が可能なのです。

また雇用される側の障がい者の方々にとっても同じです。LHHは障がい者の分野における「どんな人が、どんな会社に、どんな形で採用されれば充実した仕事ができのるか」を、身をもって知っているからです。

2020年のオリンピック・パラリンピックを通じて、障がい者雇用にも注目が集まるでしょうし、2021年までには法定雇用率の引き上げもあります。LHHとしても障がい者転職/採用支援サービスには力を注いでいきたいと考えています。

企業の採用担当者、転職を希望する障がい者の方々、いずれにしても、ぜひ一度相談いただければと思いますね。

白山:もちろん、ABSで働きたいという方もお待ちしています。

―本日はありがとうございました。

<工藤雄一>
LHH転職エージェントのコンサルタントとして障がい者転職支援を担当。

<白山はるみ>
アデコグループの様々な仕事を受託する特例子会社「アデコビジネスサポート」のソレイユ業務部 Planning Coach課でトレーナー業務を担当。アデコビジネスサポートは、従業員170名(出向者除く。出向者25名)、在宅勤務者74名。 *2020年1月現在。