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イタリアンに行って何を食べる?
イタリアンを食べに行って「一体何を食べていいかわからない。パスタってなんだ?」となる人はいないと思います。しかしイタリア料理やフランス料理が日本にやってきたころには、レストランに入っても何を注文すればいいかわからないお客がたくさんいたのです。それが今ではお客がメニューを自分で選べるようになり、アラカルトが主流になっています。
このような変化はレストランだけで起きていることではありません。ここでは各方面で起きている「コース料理からアラカルト」への消費者の時代への移行を見るとともに、これが大きなムーブメントになる今後の時代を生き抜くための方法を考察します。
この変化はあちこちで起きている
コース料理からアラカルトへの変化は飲食業界に限りません。従来型のゲームは「クリアするまでに何時間くらいかかる」「はじまりの町からスタートして、魔王を倒してエンディング」というように、どうプレイするかが製作者側に決められたコース料理でした。しかし昨今爆発的な人気を誇るソーシャルゲームは「お金を使っても使わなくても色々なゲームが楽しめる」「セーブポイントがなくても中断できる」など、プレイヤー側が自分の好きなようにプレイできるアラカルト形式になっています。
教育業界では塾が用意した講師やカリキュラムを受講するのではなく、自分で好みの講師を選択しDVDで講義を受けるタイプの予備校も出てきています。こういった予備校では、生徒は自分の好きなようにカリキュラムを組み、DVDの再生ボタンひとつで授業のスタート・ストップができるのです。これも教育分野でのコース料理からアラカルトへの移行と言うことができるでしょう。
一体誰が「メーカー」なのか?−ローカルモータース
この現象の特徴としてレストランで言えば「シェフ」、製造業で言えば「メーカー」などの提供する側と、提供される側の境界がなくなってきているという点が挙げられます。
例えば米国アリゾナ州の「ローカルモーターズ」は、エンジニア・デザイナー・自動車ファンが集まるインターネットコミュニティ上で様々な意見を募り、それに基づいて新たな車を作っている企業です。同社はほとんど在庫を持たず、買い手の製造予約が入ってから部品の買い付けを行うシステムを採用しています。
このようなビジネスモデルでは一体誰がメーカーなのかが曖昧です。1から10まで製品を作り上げ、それを提供する「メーカー」はどこにもいません。モノやサービスを作り、提供するまでの間に「提供される側」からの介入が入る。今後はあらゆるビジネスモデルでこのような状況が普通になっていくのです。
消費者が賢くなっている−オーマイグラス
なぜこのようなビジネスモデルが主流になるのかというと、「提供される側(消費者)がどんどん賢くなっている」からです。
例えば「眼鏡はインターネットで買ったほうがいい」と断言するオーマイグラスは、日本最大の眼鏡生産地である鯖江の眼鏡をインターネットを通じて販売する企業です。従来型の眼鏡店では「検眼」「フレーム選び」「レンズ選び」という購買プロセスを踏みます。眼鏡についての知識が消費者になかった頃であれば、実店舗に出向いて店員のアドバイスをもとに選ぶことも必要だったでしょう。
しかしすでに「眼鏡とはこういうものだ」とわかっている消費者にとって、眼鏡店での店員の視線は居心地の悪いものになってしまいます。そこでオーマイグラスは通販にもかかわらず、「試着し放題」を実現し、眼鏡選びを消費者に任せるという方法をとったのです。
これまでは提供する側の領分だった眼鏡選びを、提供される側に委託してしまう。このようなやり方も「アラカルトビジネス」の特徴です。
生き残り方その1「超一流のスペシャリストになる」

アラカルトビジネスが主流になった時代で生き残っていく方法には「超一流のスペシャリストになる」と「パイプ役になる」という2つがあります。前者は個人経営のラーメン屋などを考えればわかりやすいのではないでしょうか。
「そのお店でしか食べられない唯一無二のラーメン」だからこそ、チェーン店のような多彩なメニューがなくともお客が途絶えないのです。これは未だに特定のレストランのコース料理をわざわざ食べに来る人がいることからもわかります。「超一流」のモノ・サービスを提供する側になることができれば、いくら時代がアラカルトになろうとも生き残ることができるのです。
しかし「超一流」になるのは時間も労力もかかります。それまでに挫折するリスクも高い。そこで2つ目の方法の出番です。
生き残り方その2「パイプ役になる」

例えばライフスタイルアクセント社は「Factolier(ファクトリエ)」というファクトリーブランド専門の通販サイトを立ち上げて、高度な技術を持つ日本のアパレル工場と既存のアパレルブランドでは満足できない消費者をつなげるビジネスモデルを確立しています。オーマイグラスはこれまで鯖江の眼鏡産業を支えてきた地元工場と、自分で眼鏡を選びたい消費者をつなげてビジネスモデルを作りました。
これらの企業はいずれも従来の「提供する側」と「提供される側」のパイプ役になっています。この方法であれば「超一流」を目指すよりも効率的にアラカルトビジネスの中で生き残る術を身につけることができるでしょう。
「押し付けるビジネス」から「選んでもらうビジネス」へ

コース料理とはある意味「料理ってのはこういうものだ!」という押し付けるビジネスです。対してアラカルトは「こんなのもありますよ、好きなものをどうぞ」という選んでもらうビジネスです。しかしただ単に多種多様なモノ・サービスを並べるだけでは選ぶ側も疲れてしまいます。今後はさらに「どのように選んでもらうか」がポイントになるでしょう。
参考書籍『ぼくらの仮説が世界をつくる』
