「まずは走り出せ」アフリカで夢を追い続ける77歳起業家の生きざまを学ぶ

やりたいこと、やってる?

昔は「こんな仕事がしたい」「こんな人間になりたい」と思っていた人も、いつのまにか「やりたいことは老後になってからやろう」なんて先延ばしの人生プランを描くようになるのが今の日本の現状です。しかしそれでは人生があまりにももったいない。

ここでは「佐藤芳之」という1人の起業家の生き様を通じて、今の日本人が「やりたいこと」や「自分の夢」を見つけるためのマインドセットを提案します。佐藤さんは35歳で「ケニア・ナッツ・カンパニー」を立ち上げるも70歳を目前に同社をケニア人に譲渡。その後もアフリカ各地で起業を続ける人物です。その起業家精神の源にはどんな考え方があるのでしょうか?

「佐藤芳之」とは何者か?

佐藤さんは1939年に現在の宮城県南三陸町で生まれ。東京外国語大学卒業後、ガーナ大学大学院に留学した際にアフリカに魅せられ、一時帰国後にケニアの日系企業に契約社員として5年間勤務します。

当時の佐藤さんはあらゆる部署をたらい回しにされる問題社員だっただとか。また5年間の勤務を終えて帰国してからの10ヶ月間は、妻子がいるにもかかわらず「ニート」として実家で生活しています。

そんな佐藤さんの人生が転がり始めたのが1974年、35歳の時です。この時立ち上げた「ケニア・ナッツ・カンパニー」はのちにマカダミアナッツ生産量世界トップ3の一角を占めるまでに成長します。

様々な事業に挑戦と失敗を繰り返し、69歳の時にはバクテリアを利用したルワンダの公衆衛生事業会社「オーガニック・ソリューションズ・ルワンダ」を設立。同時に「ケニア・ナッツ・カンパニー」をケニア人に譲渡してしまいます。

さらに2012年には「ルワンダ・ナッツ・カンパニー」を設立、ルワンダの地にナッツの木が生い茂る光景を目指して、今もアフリカの地で「やりたいこと」「夢」を追求し続けています。

いい加減であれ、散漫であれ。

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こんな佐藤さんが著書『歩き続ければ、大丈夫。』の中で繰り返し、言葉を変えて書いているメッセージの1つが「いい加減であれ、散漫であれ」です。例えば佐藤さんは同書の中で「1.5流」という言葉を使っています。これは一流でもなく二流でもない、常に一流を目指し続けるスタンスのこと。

しかし「一流」は大変でしょう。常に「トップ」「ピーク」を保たなければいけないのは疲れます。(中略)そのぶん「1.5流」は気楽です。

眉間にしわを寄せてしのぎを削り、「一流」になってしまうのではなく、1.5流という「いい加減」なポジションで気楽に自分の生き方を楽しむ。それこそが佐藤さんのスタンスなのです。

また「やりたいこと」「夢」を見つけるためには散漫であることも重要な要素です。ニート生活のあとにアフリカに渡った時、佐藤さんにはこれといったビジネスプランがあるわけではありませんでした。

持って行ったのは軍資金15万円とタイプライターだけ。アフリカについてから書き出したビジネスプランも「リヤカーを作る」「ハム・ソーセージを作る」「鍛造や鋳造をやる」「洋服屋もやってみたい」など一貫性はゼロです。果ては「俳優や歌手をアフリカでやるのも良いな」と思っていた時期もあったのだとか。

これだけを聞くと「むちゃくちゃな人だな」と思うかもしれません。しかし佐藤さんはこの散漫さがあったからこそ、いろいろな人に出会い、様々な失敗を経験することができるのだと言います。

「石の上にも3年」という嘘

Workers reading blueprints on dry dock

佐藤さんは「石の上にも3年」「どんな仕事も3年は続けてみろ」という言葉を嘘だと言い切ります。自分の成長を日々感じることができ、夢中で生きていける場所でなければ3ヶ月で辞めても問題ないとさえ言っています。

もし、今いる場所が「正しい場所」でなければ、3年いようが、10年いようが同じこと。

佐藤さんの元には「アフリカで開発援助をやりたい!」と意気込んでくる若者たちが大勢います。そして彼らの多くはアフリカで仕事をするうちに「自分に向いていないかもしれない」「思っていた仕事と違うかもしれない」という壁にぶち当たるのだそうです。この時も佐藤さんは「苦手だとわかったら、辞めて別のことをやりなさい」と日本に帰してしまうのだとか。

今やっている仕事や目の前のことを過度に重要視して「やるべきこと」と「やりたいこと」を混同してはいけません。この2つを区別するだけでも、ただ他人に求められてやっている「やるべきこと」に人生を浪費せずに済みます。

「フット・ファースト」が合言葉

young fitness woman runner legs ready for a new start

色々と難しいことや実現性を考えてから動き始める「ヘッド・ファースト」では、リスクに足がすくんでいつまでも動き出せなくなってしまいます。

佐藤さんは「ヘッド・ファースト」ではなく、「フット・ファースト(まず足を出せ)」であれと言います。ぼんやりとした目標(「アフリカで何か面白いことがしたい」など)だけを決めたら、あとは直感が99%でも走り出してしまう、というわけ。

しかしこれだけでは単なる無謀なバカです。このスタンスを維持するために重要なこととして佐藤さんは「身軽でいること」を挙げています。

これは「やりたいこと」「夢」に向かって走り続けている間は、収入がなくても生きていけるくらいのライフスタイルを築いておけ、ということ。そうしておけばチャンスが訪れた時に迷わず飛びつくことができるのです。

「日本の常識」はさっさと捨てろ

「いい加減であれ、散漫であれ」
「『石の上にも三年』は嘘だ」
「何も考えず走り出せ」

これらは勤勉を美徳とする日本では、「変な奴の言うこと」だとされる考え方かもしれません。しかしそのような「日本の常識」にとらわれていても、結局は「月並みの日本人」にしかなれません。

「やりたいこと」や「夢」を追いかけて、人生を充実したものにしたいのであれば、そんな常識がさっさと捨ててしまいましょう。そして、まずは走り出すのです。

参考文献『歩き続ければ、大丈夫。』
Career Supli
アフリカは最後のビジネスフロンティアと言われていますね。やはりフット・ファーストが重要だと思います。
[文]鈴木 直人 [編集]サムライト編集部